ブログ
調停
2023.05.24
調停による遺産分割 その8〜特別受益〜
遺言がない場合、各相続人の相続財産に対する権利の割合は、民法によって定められます。
これを法定相続分と呼んでいます。
相続財産の評価額に対し、法定相続分の割合を掛けることで、具体的な取得金額が算出されます。
例えば、相続財産の評価額が5000万円、法定相続分が2分の1であれば、その相続人が取得する相続財産の金額は、2500万円となります。
ただし、民法では、相続人の中に、被相続人から遺贈を受け、又は婚姻、養子縁組もしくは生計の資本として贈与を受けた者がいる場合には、特別受益として、取得する相続財産の計算において修正を加えています。
具体的には、遺贈・生前贈与を受けた額(複数の相続人が遺贈・生前贈与を受けた場合は、その総額)と相続財産を加算して「みなし相続財産」を算出し、これに法定相続分(遺言がない場合)の割合を掛けて算出した金額から、遺贈・生前贈与を受けた金額を差し引く方法によって、取得する相続財産を計算します。
さきほどの例で、相続人が1000万円の営業資金として生前贈与を受けていた場合、取得する相続財産の額は、
【(5000万+1000万)✕1/2】−1000万=2000万円
となります。
生前贈与については「婚姻、養子縁組もしくは生計の資本」として贈与を受けたことが必要です。「生計の資本」という抽象的な要件ではありますが、被相続人と相続人の資産、生活状況から考えて、小遣い・礼金の範囲を超え、遺産の前渡と評価できるような金額の贈与があった場合には、特別受益を認める傾向が強いようです。
2022.10.18
調停による遺産分割 その7〜相続財産の評価〜
相続財産の範囲が確定したら、相続財産の評価を行います。
現金や預貯金のように、相続財産の価額が一目瞭然であれば問題になりませんが、不動産、自動車等の動産、株式などの金融資産は、遺産分割手続において何円として評価すべきかという点が問題になります。
特に問題になるのは、不動産です。不動産が相続財産の大部分を占めることは少なくありませんし、評価方法によって価額が大きく異なることがある(特に都市部)からです。
不動産の評価方法は、相続税評価における価額、固定資産税評価における価額(固定資産評価証明書に記載されている価額)、時価などが挙げられます。住宅地ですと、時価よりも固定資産税評価や相続税評価による価額の方が、低額になるケースが多いでしょう。
相続税評価は固定資産税評価の額は、容易に金額を算出することができますが、時価を算出することは困難です。不動産会社の査定書を提出することが多いのですが、提出する側に有利な金額であることも少なくありません。
調停ですので、当事者が合意した評価額によって決められることになります。どうしても評価額が折り合わない場合は、裁判所が鑑定という手続をすることもあります。ただ、鑑定は高額な費用と長い期間を必要とするため、実施されるケースは多くありません。
そのため、調停委員は、申立人・相手方にそれぞれ査定書を提出させ、そこから妥当な金額を算出し、当事者間の合意を取り付けるようにしているようです。
2022.09.06
調停による遺産分割 その6〜相続財産の範囲〜
遺産分割の手続は、遺産(相続財産)を、相続人間で分割する手続です。したがって、遺産分割の前提として、分割の対象である相続財産の範囲を確定させなければなりません。
どのような財産が遺産分割の対象になるかについては、過去のブログで紹介しましたが、預貯金・不動産・株式などの金融資産が相続財産として分割の対象になることが多いようです。
相続財産の範囲を決める際に揉めるのが、いわゆる「使途不明金」です。これは、亡くなった被相続人の生前に、相続人の1人が預貯金から出金し、着服したり費消したりするケースを言います。他の相続人が、出金した範囲についても相続財産に加えるよう主張し、出金した相続人がこれに反対するケースも少なくありません。
相続財産の範囲に合意ができない場合、遺産分割の対象となる財産が確定できないので、調停を進めることができなくなります(なお、相続財産の範囲を審判によって決めることは原則としてできません)。そのため、地方裁判所の訴訟において、相続財産に含まれるか否かを確定させなければなりません。
ただ、地方裁判所の訴訟も、終結まで時間がかかります。そのため、相続財産の範囲については合意しつつ、他の相続人に対して損害賠償を請求するなど、遺産分割調停を進めることができるように工夫する弁護士もいます。
2022.08.02
調停による遺産分割 その5〜遺言と遺産分割〜
遺言がある場合、調停による遺産分割を進めることはできるのでしょうか。
たとえば、1人の相続人に全ての遺産を相続させる旨の遺言がある場合、その遺言が有効であれば、遺産分割の手続をすることはできません。遺産分割をすることなく、その相続人が全ての遺産を相続することになります(遺留分侵害の問題が生じることはありますが)。
他方、相続財産の一部のみを特定の相続人に相続させる旨の遺言であれば、遺言の対象となっていない遺産については、遺産分割の対象になりますので、その遺産について調停を進めることができます。
相続人の1名に全ての遺産を相続させる旨の遺言書があるものの、他の相続人が、「その遺言書は無効である」と主張している場合はどうでしょう。遺言が有効か無効かについては、民事訴訟による手続でなければ判断できません。もっとも、当事者間の話し合いで解決できる場合もあるので、調停を受け付け、折り合う見込みがない場合に取り下げてもらうという運用をすることが多いようです。
いずれにせよ、遺言の有無は調停の進行に大きな影響を及ぼすので、調停委員会は遺言の有無を早期に把握し、進行方法を検討しなければならないのです。
2022.07.12
相続分の放棄と相続放棄
家庭裁判所における遺産分割調停・審判において、相続人は自身の相続分を放棄することができます。相続分を放棄すると、その相続人は遺産分割調停において、当事者としての地位を失うことになります。
この相続「分」の放棄は、相続放棄とは異なる制度です。一番の違いは、相続人の債務を受け継ぐか否かという点。相続放棄をすると、相続人の債務から免れることができますが、相続分の放棄は相続人の債務には影響せず、そのまま債務を受け継ぐことになります。
また、相続放棄は期間制限があり、家庭裁判所への「相続の放棄の申述」という手続が必要となります。相続分の放棄は、調停・審判の手続中であれば特に期間制限はなく、別途の手続をする必要がない(相続分放棄届出書と印鑑証明書の提出のみで受け付けることが多い)ので、この点も違いがあります。
名称は似ていますが、相続人の債務を受け継ぐか否かという点で大きな違いが生じる制度。相続人としての地位を望まないのであれば、早めに相続放棄の手続をした方が良いと思います。
2022.07.05
調停による遺産分割 その4〜相続人の範囲〜
遺産分割を行うためには、「誰が相続人か」を明らかにしなければなりません。
通常は、戸籍を調べて相続人の範囲を確定してゆきます。
ただ、相続人に配偶者や養子がおり、婚姻や縁組の成立が争われる場合は、相続人の範囲をすぐに確定することができません。このような場合、最終的には訴訟で決着をつけなければならなくなります。具体例として、被相続人に無断で縁組届を提出した場合などが考えられます。
また、相続放棄の有無なども、相続人を確定させるために必要です。相続放棄は裁判所での手続が必要ですので、比較的容易に確定することができます。
これに類似するものに、「相続分の譲渡」「相続分の放棄」という手続があります。相続分の譲渡とは、相続人が他の相続人に対して相続を受ける権利を譲渡するものです。相続分の譲渡がなされると、譲渡した者は相続人ではなくなり、遺産分割の当事者から外れます(なお、相続分を譲渡した旨の書類には実印を押印し、印鑑証明を添付する運用が実務上なされています)。
相続分の放棄は、調停・審判の手続中に、裁判所に対し、相続分を放棄することで、遺産分割の当事者から外してもらうことです。詳しくは次回以降でご説明しますが、相続放棄とは異なる手続です。